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東京高等裁判所 昭和57年(行コ)22号 判決

栃木県黒磯市高砂町六番九号

控訴人

有限会社 栃木商事

右代表者代表取締役

田中義一

右訴訟代理人弁護士

佐藤義行

大山皓史

栃木県大田原市紫塚二六八四番地四〇

被控訴人

大田原税務署長

宮沢四作

右指定代理人

梅村裕司

工藤聡

阿島丈夫

楜沢伸吉

右当事者間の租税債務不存在確認等請求控訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は「1 原判決を取消す。2 控訴人が昭和四八年四月一日より昭和四九年三月三一日までの事業年度の法人税について昭和五一年三月八日付でした更正の請求に対し、被控訴人が昭和五一年四月六日付でした更正をすべき理由がない旨の処分を取消す。3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する」との判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

1  控訴人の主張

控訴人の昭和四八年度分法人税申告に関与した小川税理士は、控訴人の同年度の帳簿類を調査し、同年度における控訴人の収益は、適正利益の範囲内であり非課税であるとしたことから見て、同年度の土地譲渡の収益が、土地譲渡益重課税の対象となるなど思いもよらないことであって、勿論申告も考えていなかったものと思われる。従って、小川税理士は、土地譲渡益重課税について理解しておらず、また、その算定に当り、収益から控除さるべき直接又は間接に要した経費の計算法と実額配賦法の二通りがあることも理解していなかったものと思われる。控訴人の昭和四八年度の帳簿類は、土地取引金額、諸経費等を正確に記載しており、個々の取引についての原価及び直接又は間接に要した経費も明確に算出することができ、個々の取引において直接要した経費だけを拾ったとしても、実額配賦法によれば三四二万三九二一円の経費が控訴人に有利に計上できた。しかるに、被控訴人係官津川道夫は、真実の取引金額を表示していない売買契約書を真実の取引金額と誤認し、右帳簿類を不正確なものであるときめつけて、取引原価及び直接又は間接に要した経費の算定が困難であるとして、実際に要した経費にはほど遠い僅かな金額の計上しかできない概算法を強要し、これに基づく過大な土地譲渡益重課税の申告をさせた。

租税申告制度は、納税者が自ら認識する収益等の事実を明らかにして、納付すべき税額を算出して申告し、納税債務の確定をすみやかに実現させ、徴税事務が円滑に処理されることを目的とする制度であるが、自主申告をその制度の根幹とするものである。従って、実体的に課税要件事実を欠いているにも拘らず課税庁の強要によって租税申告をさせた場合には、最早自主申告とはいえず、租税申告制度の趣旨に背馳し違法かつ無効な申告といわざるをえない。本件において、被控訴人は津川係官の誤った行政指導による強要に基づいて控訴人にさせた修正申告を、適法かつ有効な申告として取扱うことができない筈であり、控訴人は右修正申告に基づく租税債務を負担していないものというべきである。そこで、控訴人としては、津川係官の控訴人に対する右強要に行政処分と同様の処分性があるものとして、その取消及び租税債務不存在確認の行政訴訟を提起することも考慮しているが、不当な課税の是正方法としては迂遠であり、その訴訟追行にも法律的に困難な問題点もあるので、控訴人は更正の請求により行政手続上その是正を求めたのである。よって、被控訴人は、控訴人の更正の請求が所定の期限徒過後にされたものであっても、被控訴人係官がさせた違法な修正申告による違法状態を排除するため、右請求を却下することなくこれに対応する更正決定をすべき信義則上の義務があるというべきである。

2  被控訴人の主張

控訴人の右主張は争う。

控訴人の昭和四八年度分の土地譲渡益重課税の経費計算に当り、これに関与した小川税理士は、実額配賦法によって経費を計算するのが実務上困難であったことと、原価計算ができなかったことからこれを採用せず、概算法によって計算したものである。

3  証拠

控訴代理人は甲第一五号証(写し)を提出し、被控訴人指定代理人は同号証の原本の存在及びその成立は知らないと述べた。

理由

一  当裁判所は、控訴人の本訴請求を失当であると判断する。

その理由は、次のとおり付加するほかは、原判決理由と同一であるから、その記載を引用する。

控訴人は、控訴人がその昭和四八年度分の法人税につき昭和四九年一二月一一日にした修正申告は被控訴人係官の誤った行政指導による強要に基づき過大な土地譲渡益重課税額を算出したもので、控訴人はその違法状態を排除するため本件更正の請求をしたのであるから、被控訴人は右更正の請求が所定の期間徒過後にされたものであっても却下することなくこれに対応する更正処分をすべき信義則上の義務がある旨主張するが、右主張は国税通則法二三条一項本文の規定及びその立法趣旨(前掲)に照らし理由がなく、採用することができない。

二  よつて、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川添萬夫 裁判官 鎌田泰輝 裁判官 相良甲子彦)

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